女性の体には、「母乳を作る仕組み」と「作られた母乳を体の外に出す仕組み」があります。
この2つがバランスよく働くことで、母乳育児はスムーズに進んでいきます。
この記事では「作られた母乳を体の外に出す仕組み=射乳反射(しゃにゅうはんしゃ)」と、その反射の中心となるホルモン「オキシトシン」について、生理学的にわかりやすく解説します。
母乳を作る仕組みについて知りたい方はこちらをご覧ください。

オキシトシンとは
オキシトシンは、脳の視床下部で作られ、下垂体後葉から分泌されるホルモンです。
代表的な働きは以下です。
- 子宮や乳腺などの収縮を促す
- 子宮の収縮を促す
- 乳腺の筋上皮細胞を収縮させ、母乳を乳房から押し出す
- 人とのつながりに関わる
- 親子の愛着やパートナーとの信頼関係の構築など、人との結びつきに関係する
- 大切な相手を守る気持ちが強くなった結果として、他者への警戒や排除、攻撃的な反応につながることもある
- 心の安定に関わる
- 不安や恐怖心を和らげる
- ストレスを軽減する
もともと出産時の子宮収縮や授乳時の射乳反射に関わるホルモンとして知られていましたが、近年は「愛情ホルモン」としての側面にも注目が集まっています。人とのつながりや社会的な関係に関わるため、状況によっては相手への愛着だけでなく、大切な相手を守ろうとする行動や、他者への警戒・排除といった反応にも関係すると考えられています。
産後の母親が夫や周囲に対して攻撃的になるいわゆる「ガルガル期」についても、こうしたオキシトシンの働きが関与している可能性が考えられます。
射乳反射とは
射乳反射とは、赤ちゃんが乳頭を吸う刺激などをきっかけにオキシトシンが分泌され、乳房の中にある母乳が乳頭へ向かって押し出される反射のことです。
乳腺の周囲には筋上皮細胞という細胞があり、オキシトシンが作用するとこの細胞が収縮します。すると、乳腺にたまっていた母乳が押し出され、乳管を通って乳頭へ運ばれます。
射乳反射はシャワーのような勢いがあります。とくに母乳分泌が多い人だと飲み始めて1〜2分で赤ちゃんが毎回むせてしまったりするのですが、あの勢いを見ると納得です。
射乳反射が起きているかどうかで、一度に飲める母乳量にはかなり差が出ます。射乳がまったく起こらなければ、児が飲み取れる最大量は30mLにすぎない[1]という報告もあります。
射乳反射は授乳中に何度か起こる
ここまで説明してきた通り、射乳反射はオキシトシンの働きによって起こります。
児が哺乳を開始すると1分以内に血中オキシトシン濃度が上昇し、哺乳をやめると6分以内に基礎値に戻ります。(中略)射乳反射が授乳開始後どれくらいで起こるか、何回起こるかは個々の女性で異なりますが、授乳期間を通して、一人の女性では一定のパターンで射乳反射が起こることがわかってきました。[2]
もちろんオキシトシンの分泌には個人差がありますが、私の母乳外来でも、赤ちゃんがおっぱいを飲み始めると約1〜2分以内に1回目の射乳反射が起きることが観察されています。射乳反射の持続時間は約1分前後で、10〜15分間片方のおっぱいを吸わせ続けていると、その間に2〜3回ほど射乳反射が起きているように感じます。
射乳反射が起きると「胸がツーンとする」「ビリビリする」と感じることもあります。ただ、これにも個人差がありますし、とくに2回目、3回目の反射ではその感覚を感じないことも多いです。
つまり、「感覚がない=射乳反射が起きていない」とは言い切れないということです。
射乳反射を促すもの・抑えるもの
射乳反射を味方につけられるかどうかは、母乳育児をスムーズに進めるうえで重要です。
以下のリストを参考に、射乳反射を促す環境を整えてみましょう。
[射乳反射を促すもの]
- 赤ちゃんを見たり、赤ちゃんの写真や動画を見たりする
- 赤ちゃんのにおいをかぐ
- 乳首を1〜2分やさしく刺激する
[射乳反射を抑えるもの]
- 痛み
- 不安や心配
- ストレス
とはいえ、射乳反射は「今から起こすぞ!」と意識してコントロールできるものでもないですし、授乳をしていれば自然と出てくる反応です。
本来は普通にしていても起こるものですが、強い痛みや不安があると、それがブレーキになって射乳反射が出にくくなることがあります。もし心当たりがある場合は、痛みや不安の原因について早めに助産院や母乳外来へ相談してください。
赤ちゃんは射乳反射に合わせて母乳を飲んでいる
哺乳瓶は、赤ちゃんが口を動かすたびに、基本的には同じペースでミルクが口内に流れ込んできます。しかしおっぱいは、主に射乳反射によって母乳を体外に出すので、分泌量には「波」が発生します。
つまり、1回の授乳中に、「少ししか出てこない時間」と「シャワーのように大量に出てくる時間」が交互に数回繰り返されるということです。
この違いを知らないと、「哺乳瓶はゴクゴク真剣に飲むのに、母乳だと途中で遊び始めます」「だから母乳が出ていない(足りない)んだと思います」という誤解を生んでしまいます。
私自身、おっぱいをずっと同じペースでゴクゴク飲み続ける赤ちゃんは見たことがありません(射乳反射のメカニズム的に、当然のことです)。哺乳瓶には哺乳瓶の、おっぱいにはおっぱいの飲み方があるということは知っておくといいでしょう。
関連記事:【母乳吸啜のメカニズム】
まとめ
この記事では、母乳を体外に出すために欠かせない「オキシトシン」と「射乳反射」の仕組みについて解説しました。
大切なポイントは、次の4つです。
- オキシトシンとは:乳腺の筋上皮細胞を収縮させ、母乳を乳房から押し出す働きをするホルモン
- 射乳反射とは:赤ちゃんが乳頭を吸う刺激などをきっかけに起こり、母乳を乳頭へ向かって押し出す反射。授乳中に何度か繰り返される
- 母乳の流れには波がある:射乳反射が繰り返されるため、母乳の流れには強弱が生じる
- 射乳反射を促すことが大切:赤ちゃんの姿やにおい、乳房への刺激などは射乳反射を促し、痛みや不安、ストレスなどは射乳反射を抑制する
射乳反射をうまく働かせて作られた母乳をしっかり体の外に出すことは、母乳分泌の維持や増量に欠かすことができません。
- 母乳を作る仕組み(プロラクチン)
- 作られた母乳を体の外に出す仕組み(オキシトシン)
- 母乳量を調整する仕組み(オートクリン・コントロール)
母乳分泌に関係する3つの仕組みを知り、自身が目指す母乳育児を続けてもらえればと思います。
参考文献
[1]水野克己『よくわかる母乳育児 改訂第3版』へるす出版、2023年、p.41
[2]同上、p.40
このサイトは、育児に関する情報発信を継続するため、任意のご支援(おふせ)で運営しています。すべての記事は無料でご覧いただけます。役に立ったと感じた場合に、ご支援いただけると励みになります。
OFUSEで応援を送る