母乳の分泌は、主に2つの仕組みで成り立っています。
- ホルモンによる調節
- 乳房の中で行われる局所的な調節
ホルモンは主に「母乳を作る能力」を育て、乳房の局所的な仕組みは、「実際にどれくらい母乳を作るか」を日々調整しています。
この乳房内で行われる局所的な調整のことを、オートクリン・コントロール といいます。
この記事では、母乳分泌を維持するために非常に重要な オートクリン・コントロール について、生理学の視点からわかりやすく解説します。
「ホルモンによる調節」について知りたい方は以下の記事をご覧ください。

オートクリン・コントロールとは
オートクリン・コントロールとは、母乳の分泌量を「需要(赤ちゃんが飲む量)」と「供給(胸が作る量)」に応じて調節する仕組みのこと。
この需要と供給のバランスは、左右それぞれの乳房で独立してコントロールされています。そのため、例えば「右側ばかりで授乳していると、右側だけ母乳がよく出るようになる」という現象が起こります。
オートクリン・コントロールのメカニズム
母乳が作られなくなる(減る)仕組み
母乳が乳房の中に長く溜まったままになると、主に次の2つの仕組みによって母乳の産生がストップ(抑制)されます。
① FIL(Feedback Inhibitor of Lactation:乳汁生産抑制因子)
母乳の中には、母乳を作るのを抑える「FIL」という特殊なタンパク質が含まれています。
母乳が長時間乳房内に溜まっていると、FIL濃度も上昇。その結果、母乳の産生が抑制されます。
② 乳汁充満度(乳腺細胞の形の変化)
乳房に母乳がパンパンに溜まると、風船が膨らむように乳腺細胞の形が引き伸ばされて変化します。この物理的な圧迫も、母乳の分泌を抑制する原因になります。

マウスの研究では、母乳が乳房内に充満して乳腺細胞が「扁平(平ら)な状態」になると母乳の分泌が抑えられ、母乳が排出されて「円柱状(元の形)」に戻ると、すみやかに分泌が再開される様子が観察されています。ヒトの乳房でも、同様の仕組みが働いていると考えられています。[2]
母乳が増える仕組み
母乳が乳房から頻繁に外へ出される(授乳や搾乳をする)と、胸の中にFILが溜まりにくくなり、乳腺細胞も母乳を作りやすい形(円柱状)を保てるようになります。
その結果、母乳の産生は活発になり、赤ちゃんが必要とする量に合わせて分泌量が増えていきます。
「乳汁生成Ⅱ期からⅢ期に移行すると、左右それぞれの乳房で生産される乳汁は短期的には、前回どれだけ乳房から除去されたかで決まるようになります。」[1]
つまり、分泌を増やすためには、「赤ちゃんが欲しがるたびに、母乳を十分に飲みとってもらうこと」が何よりも重要です。
もし赤ちゃんがうまく吸えないなど、なんらかの理由で直接おっぱいを飲めない場合は、定期的に搾乳をしていくことで同じように母乳の分泌を増やすことができます。
まとめ
この記事では、母乳分泌を維持するために欠かせない「オートクリン・コントロール」の仕組みについて解説しました。
大切なポイントは、次の4つです。
- オートクリン・コントロールとは:乳房の中で母乳分泌量を直接コントロールする仕組みのこと。
- 溜まると減る:母乳が乳房内に溜まると、FILや乳腺細胞の変形によって分泌が抑制される。
- 出すと増える:母乳を頻繁に外に出すことでブレーキが外れ、赤ちゃんに必要な量が作られるようになっていく。
- 増やすための対策:赤ちゃんが欲しがるたびに授乳する、または適切なタイミングで搾乳することが大切。
つまり オートクリン・コントロール は、「よく飲まれた乳房はよく作るようになり、あまり飲まれない乳房は作る量が減る」という非常にシンプルな仕組みです。
母乳育児においては、体の中で「母乳が作られること」と同じくらい、それを「しっかり出すこと」も大切になります。作られた母乳がどのように乳房から出てくるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:【オキシトシン反射(射乳反射)とは|母乳を増やすための基礎知識③】
参考文献
[1]水野克己『よくわかる母乳育児 改訂第3版』へるす出版、2023年、p.42
[2]酒井仙吉『哺乳類誕生―乳の獲得と進化の謎』講談社、2015年、pp.214-216
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