「あの病院はスパルタだった」
母乳育児に力を入れている病院について、そんな話を聞いたことはありませんか?
実際に、私も助産師として働く中で、
「母乳ばかり勧められてつらかった」
「次はあの病院では産みたくない」
という声を耳にすることがあります。
もちろん、そう感じた経験そのものを否定するつもりはありません。ただ、その背景にある「なぜ」が十分に伝わっていないようにも感じています。
この記事で、入院中に頻回授乳を勧める理由について詳しく解説していきます。
なぜ母乳推進病院は頻回授乳を勧めるのか
母乳推進病院では、産後すぐから頻回授乳を勧めます。
1日の授乳回数は8回〜12回以上、多い人だと20回になることも…!
結果ヘロヘロになり助産師に相談しても、
「赤ちゃんが欲しがるたびに吸わせましょう」
「ほら、母乳出てるでしょう」
そう言われて、なかなかミルクをもらえない。
これが「スパルタ」と揶揄される理由です。しかし、なぜそこまで頻回授乳を勧めるのでしょうか。
母乳には乳児や母体に一定の利点があることがわかっており、WHO/ユニセフも母乳育児支援を推奨しています。
だからこそ母乳推進病院は「母乳育児を続けられるようにすること」を目標に支援を行っています。
関連記事:【エビデンスとしての母乳】
そして、その支援の中でとくに重要なのが産後の数日間なのです。
実は後から頑張る方が大変
母乳育児はスタートが遅くなるほど条件的に不利になります。
理由は大きく2つです。
①ホルモン的に不利になる
母乳育児では、産後の数日がとても重要です。なぜなら、母乳を作るためのホルモン環境が整っている時期だから。
母乳は、赤ちゃんに吸われる刺激で作られます。ホルモンが働きやすい産後早期にどれだけ授乳刺激が入るかによって、その後の母乳分泌量が決まっていきます。
産後数日間は、母乳分泌を促すための最高のタイミング
一方で、時間が経つにつれてホルモンの影響は弱まり、母乳を増やす難易度は上がっていきます。つまり、母乳分泌はいつでも同じように増やせるわけではないということです。
母乳がどのようなホルモンの働きで作られるのか、また頻回授乳が分泌維持にどう関係するかについては以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロラクチン分泌と授乳刺激の関係】
②赤ちゃんとのギャップが大きくなる
さらに現実的な問題として、赤ちゃんが必要とする哺乳量は日を追うごとに増えていきます。
生まれたばかりの赤ちゃんの胃はとても小さく、一度にたくさん飲むことはできません。
そのため新生児期は、
- 少量ずつ
- 何度も飲む
という授乳スタイルが自然です。
これは母乳育児にとっても有利です。
- 1回量が少なくても赤ちゃんの空腹を満たすことができる
- 頻回授乳によって母乳を増やす刺激をたくさん入れることができる
しかし日齢が進むと、赤ちゃんが必要とする量はどんどん増えていきます。
その頃になっても母乳量が十分に増えていないと、赤ちゃんが満腹になる哺乳量と実際の母乳量との差が大きくなってしまいます。
おっぱいをあげても赤ちゃんが満足できずに泣いてしまう
↓
「足りなくてかわいそう、ミルクあげよう」と考えるようになる
すると、母乳を増やすために必要な頻回授乳を続けることが難しくなってしまいます。
このように、母乳育児の土台を作りやすいのは赤ちゃんの必要量がまだ少ない産後早期であり、後からの方が明らかに大変なのです。
入院中のラクさと、退院後のラクさは別
母乳推進病院が見ているのは、「入院中の数日間」でなく、「退院した後の、数週間、数ヶ月に及ぶリアルな授乳生活」です。
以下の例をご覧ください。
◎パターンA
・頻回授乳した
・抱き方を練習した
・深く吸わせる練習をした
・母乳量が増えた
↓
退院時
「このままいけば大丈夫そう」
◎パターンB
・授乳経験が少ない
・母乳量が増えていない
・吸わせ方が定着していない
↓
退院後
「これで合ってる?」
「足りてる?」
「ミルク足す?」
この違いを見ると、「いまラク」と「後でラク」は必ずしも同じではないことが分かります。母乳推進病院が産後の数日に力を入れるのは、こうした経過をたくさん見ているからです。
退院後の授乳生活も見据えている
入院中は24時間サポートを受けられますが、退院後は自分で授乳を続けていかなければなりません。
だから病院では、母乳量を増やすだけでなく、抱き方や吸わせ方などの授乳スキルを身につけることも重視しています。
つまり入院中は、退院後に自分たちで授乳できるようになるための準備期間でもあるのです。産後数日間の頻回授乳もその準備の一部です。
もちろん実際の支援では、母乳だけではなく、母親の体調や疲労、赤ちゃんの状態をみながら、適切な補足の提案も行われています。
それでも産後早期が母乳育児の土台を作りやすい時期であることは変わりません。
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